寄稿論文転載                                  岡 成生 Shigeo Oka

1.金型精密肉盛溶接法講座
  
金型情報サイト “金型情報Factory” に2003/7月に3回掲載されたもの。
        
2.第17回 「金型技術のグローバル化と日本の国際競争力の強化」
  金型情報サイト “金型情報Factory” のコラム“風” に2003/7掲載されたもの。

ああああああ

メロン先生の金型精密肉盛溶接講座

講 師:金型精密肉盛溶接法 技術コンサルタント
インターメロン代表 岡 成生(おか しげお)

 第1回: 金型精密肉盛溶接法(1)(精密アルゴン肉盛溶接法)
 第2回: 金型精密肉盛溶接法(2)(精密アルゴン肉盛溶接法)/ 溶着法
 第3回: 溶接機材の構成と購入
            

 第1回:金型精密肉盛溶接法(1)
 (精密アルゴン肉盛溶接法)


                 
サンプル写真

小さい金型部品の打こん補修
三頂点の角の肉盛点(中央右 直径φ0.4)
右はシャープペンシルの芯φ0.5


 金型を少量精密微細に肉盛溶接する方法は、各社いろいろの方法で行われています。各方法には長所も短所もあります。各方法の比較検討にはいると、業界の弊害もあるし、原稿も長くなるから、ここでは当インターメロン方式の精密アルゴン溶接について述べます。

 金型の中(ちゅう)肉盛や大量肉盛溶接は昔からアルゴン溶接で肉盛されています。シールドガスにアルゴンガスを使用するから、業界ではアルゴン溶接といいます。TIG(ティグ)溶接のことです。
 TIG溶接の特徴は溶接金属が高品質なことです。研磨面に光沢があり、ブロホール(気孔、業界ではピンホール、スという)、ピットが無く、溶融接合されているので、溶接強度が強く品質に信頼性があり剥離がありません。金型改造、設計変更、補修などの恒久対策として採用されています。直流TIG溶接機、電極マイナスのアークで溶融接合します。

 アルゴン溶接は、こうして字に書けば簡単なようですが、実際に本型に肉盛溶接するとなると、永年熟練をした人でないとできません。各地方の街の金型溶接所、大手のメーカーではベテランの先輩、金型専業メーカーでは社長や工場長などが、この難しい技術を身につけています。
 これら名人たちの個人差もありますが、肉盛点の最小で直径ではφ2.0〜φ3.0くらい、ビード幅では3.0〜5.0mm以上の肉盛溶接を施工しています。
 しかし、その名人たちも50〜60歳くらいになり、退職などでだんだん数が減ってきています。

 本稿の主題は金型精密肉盛溶接法です。これは従来の肉盛溶接名人たちでもできない難しい金型微細肉盛溶接技術を初心者でもできるようにしてあります。金型現場ではきわめて重要な技術です。永年この技術にたずさわっている者として、その経験と実際を報告します。

 インターメロン(社名)では、当然のこととしてアルゴン溶接機(精密TIG溶接機〔A〕)を採用しています。市販の大手メーカーの汎用TIG溶接機を使用して、金型の精密肉盛溶接を施工します。精密肉盛と中肉盛の両方ができます。

 もう1つの方法として、コンデンサ電源による微細衝突溶着法を採用しています。これは衝突接合のため空気中で施工します。溶着機〔B〕を使用するから溶着法といいます。

 溶着機〔B〕は2つの機能を持っています。
 1つは、溶着機能だけでバリ止めやピンホールの修正をしたり、薄板やシックネスを金型のコマに接合してスペーサとします。いろいろの局面で便利な技術です。
 溶着機にはもう1つの役目があります。アルゴン精密肉盛溶接を施工するときに、溶加材の小片を金型部位に通電状態にする仮付けする機能です。
 では、金型精密アルゴン肉盛溶接をどのように施工するかを簡単に述べてみます。ここでは、金型精密アルゴン肉盛溶接機を精密TIG溶接機〔A〕、コンデンサ電源による微細衝突溶着機を溶着機〔B〕と呼びます。

1. 金型精密肉盛を施工するときは〔A〕と〔B〕を併用します。
2. 中(ちゅう)肉盛を施工するときは〔A〕だけ使用します。
3. 簡易バリ止めやピンホールの修正、シックネスの貼り付けは〔B〕だけ使用するときもあります。

ということは、後から説明するように〔A〕〔B〕2台の電源で3種類の施工ができることになります。以下はその施工の基本形について述べます。

4. 中肉盛は従来の名人が施工する方法と同じで、トーチ手押しスイッチを使用します。しかし、これは手がぶれて相当の練習と熟練が必要です。インタ−メロン方式はフットスイッチを併用しています。これなら誰でも簡単にできます。〔A〕だけ使用します。
5. 精密アルゴン肉盛溶接の施工法は、はじめに金型部位に〔B〕で溶加材の小片を位置決め仮付けします。この仮付け溶加材の小片に〔A〕のノズル先端のタングステン電極先端を近づけて固定します。手による固定と微調整トーチスタンドを使用する2つの方法があります。〔A〕と〔B〕を使用します。
6. 次にアークを短時間発生させます。アークスポットタイマで通電時間を設定します。そうすると、ねらった部位に目的の小肉盛ができます。

企業のメリット:
 金型精密肉盛溶接技術を内製化していると、企業にとってはかりしれないメリットがあります。

1. 時間の節約が大幅にできる。
つくり替え時間の大幅な短縮。街の溶接所でもできない精密肉盛ができる。
2. 適用金型の種類
ここでは主にプラスチック金型を想定して記述していますが、どんな金型の種類にも精密肉盛溶接は必要です。
・プラスチック金型 ・プレス金型 ・ダイカスト金型 ・ゴム金型
・ブロー金型 ・ロストワックス金型 ・ガラス金型 ・粉末合金用金型
・セラミック用金型などに適用されます。
              
 第2回:金型精密肉盛溶接法(2)
 (精密アルゴン肉盛溶接法)/ 溶着法


溶接条件と施工法:

 金型部位の精密肉盛溶接に失敗は許されません。長時間かかって完成しつつある金型部位です。しかも納期は緊迫しています。必ずその納期までに納めなければなりません。では金型精密アルゴン肉盛溶接法の施工法の概略を述べてみます。

溶接条件の出し方:
 溶接条件は多くの要素を理解する必要があります。肉盛目的、部位、形状、大きさ、などの要素を逆算して条件を設定します。

溶接条件の要素:
1.

金型部位の入熱量の違いを認識すること。
金型部材の全体を1つの大きさと考えてはなりません。金型部位局部はすべて大きさ質量が異なると認識することが大切です。金型各部位の入熱量はすべて異なります。入熱量はa.が1番小さくb. c.の順にd.が最大になる。

a. 三頂点の角
b. パーティングライン
c. 平面
d. すみ肉

金型部位の入熱量の違い
2. 仮付け溶加材の大きさ
3. 仮付けの方法と形
4. 仮付け電流値
5. 精密TIG溶接機〔A〕の溶接電流値
6. アークスポットタイム(アークが発生している時間)
7. アルゴンガスの流量(風圧とシールド効果)
8. タングステン電極の先端の研磨状態、溶損や折れ
9. ノズル先端とタングステン電極先端の距離
10. 母材と電極先端の距離(母材電極間隔)
11. 母材アースがよく接合されているか。
12. 母材と溶加材の表面管理
金型母材や溶加材の表面の水分、油脂、さび、手の汗、微細異物などをよく清掃除去すること。(表面管理という)
13. タングステン電極の先端の母材に対する角度
14. 微調整トーチスタンドの操作性がよく剛性があること。
15. その他。

 どれも大切ですが、中でも溶着機〔B〕による仮付け方法が、本精密肉盛溶接の成否を決定するノウハウです。肉盛溶接結果の70〜80%を支配します。もちろん顕微鏡で観察しながら仮付けします。
 微細アンダーカット(二次ひけ)がなく、狙ったところに小さく肉盛をすることができ、肉盛点や肉盛ビードの近傍0.5〜1.0mmが溶損しません。これが特徴であり成果です。
 PLを点肉盛(φ1.0)しても二次ひけはありません。PLの内側平行で0.5〜0.7mmまで接近して微細肉盛してもPLのエッジは溶損しません。
 この仮付けしてアルゴン溶接する方法は欠点もあります。施工に手間がかかることです。しかし、私の長い経験からして、この方法がもっとも正確に精密微細肉盛ができます。

 金型精密肉盛溶接法は施工者のやる気と技能センスにも影響されます。できる人は1日の講習会でできるようになりますが、やる気と技能センスがない人はいつまでもグズグズしています。

仮付け状態
仮付け状態
三頂点の角
肉盛点φ1.0
肉盛点φ1.0
右上はシャープペンの芯φ0.5

溶着法:
溶着機〔B〕だけによる簡易少量精密肉盛溶着法を簡単に説明します。
電源はコンデンサを利用した微細衝突溶接法です。コンデンサから4/1000secの短時間に放出する電子の衝突エネルギーで薄板と金型母材を接合します。この現象を少量肉盛に応用します。シールドガスのアルゴンガスは使用しません。

PLの補修例
PLの補修例
右上はシャープペンの芯φ0.5
薄板の貼り付け
薄板の貼り付け
金型コマに薄板を点で接合したもの。
右の縦方向は連続接合です。
装填する方向は連続ビードにする。
               

 第3回:溶接機材の構成と購入



溶接機の構成:


電源〔A〕

いま会社にある市販の直流TIG溶接機〔A〕でできるときもある。

少々の工夫と追加機材が必要になる。アルゴン中盛と精密肉盛ができる。スペックの最低電流値は何アンペアか、スポットタイマがあるかないか。スポットタイマの最小タイム。

インターメロンの標準セットを推薦しています。

市販の大手メーカー溶接機を少々工夫したのも。単相200Vアルゴン中盛と精密肉盛ができる。

電源〔B〕

溶着機〔B〕がすでに会社にあるときはそれを使用する。

まだない会社や、増設のときは新たに購入する。

精密アルゴン肉盛溶接のときの仮付けと溶着法の両方に使用する。

100V / 単相200V

1. 金型精密肉盛溶接を施工するときは、電源〔A〕と電源〔B〕を併用する。
2. 中(ちゅう)肉盛を施工するときは〔A〕だけ使用する。
3. バリ止めやピンホールの修正、シックネスの貼り付けのときは、〔B〕だけ使用することもある。業界では簡易溶接と呼んでいますが、大切な技術です。
4. 〔A〕〔B〕の2台の電源で3種類の肉盛施工ができることになります。

電源スペックの注意点:

1.〔A〕の最低電流値はいくらか。
2.〔A〕のアークスポットタイム
アークの発射時間はそんなに短いものではありません。アークスポットタイムを短くしてもアークの遅れ(ディレイ)があるから効果はありません。

アークスポットタイムが短いと次のような欠点があります。
・電流を強くしなければならないので、タングステン電極の消耗がはげしい。
・母材との溶け込みが少なく剥離しやすい。

溶接機材の購入検討と問題点:

溶接機と機材を購入するときの注意点
1. 業者の実演をよく見て、いろいろの質問をする。
2.

PLや三頂点の角の精密肉盛が一発でできて、二次ひけがないことを確認すること。

3. 業者が今日は調子が悪いので上手にできないが、やればできる、という言葉を信じてはいけない。今できなければ先でもできません。
4. 担当者が自分で施工してみることが大切です。上手にできればその機能と方法がいいことになります。
5. 基本ができた後は、機材の操作性が重要な要素になってきます。施工全体の操作性がスイスイといかないと、実際の肉盛溶接作業では大変な苦労をすることになります。操作性が悪いと、あきらめて使用を放棄する場合が多い。
6. 安全性の確認
特にアーク光線を目で絶対に見ない確実な安全対策があるかないか。
7. トーチ保持治具の操作性と確実性の確認。
“やればできるだろう”的な安易な考えで、電源や機材を購入すると多くの場合は使用できずに、ホコリをかぶることになるから、十分にトライ実践して購入の決定をすることが大切です。この技術的評価の仕方は根の深い問題です。

 当インターメロン(社名)では、この諸問題を解決するために、有料で技術講習会を開催しています。1日かけて十分に検討することができます。
 使用頻度の少ない会社や工場では、溶接機の購入はあまりすすめません。簡単とは言いながらも多少のこつと訓練が必要ですから、1年に10回くらいしか肉盛溶接がない会社は機材を購入しないほうがいいでしょう。たまに使っても技能と施工条件を保持することは難しいからです。お客さんからすれば、町の溶接屋さんに出せば肉盛が大きくなるし、溶接機を買うほど肉盛溶接の頻度はない、たまに自分で肉盛すると、技術を忘れているのでうまくいかないなどの問題があります。
 大手メーカーでは金型事業部、金型メーカーでは電源があると便利ですが、小規模の成形工場では購入のメリットは少ないです。しかし、私はそう思っても電源を購入される成形工場もありますから、一概にこちらが考えるほど簡単なものではありません。


付録:これから注目される技術: YAGレーザ微細肉盛溶接加工
YAGレーザを使って、金型部位を微細肉盛溶接する技術が登場しています。
設備費が高い欠点がありますが、焦点fですみ肉が簡単にできる特徴があります。

YAGレーザ精密肉盛溶接サンプル
(すみ肉ビード)
右はシャープペンの芯φ0.5




 第十七回「金型技術のグローバル化と日本の国際競争力の強化


・金型技術大学 ・金型高専 ・金型肉盛溶接学校の創設を提案します。

 自動車部品や電機電子部品、PC、デジカメなどの精密部品は、日本の製造業の中心をなしています。金型技術はその中核技術です。
 金型の種類には次のようなのもがあります。プラスチック金型、プレス金型、ダイカスト金型、ゴム金型、ブロー金型、ロストワックス金型、ガラス金型、粉末冶金用金型、セラミックス用金型、鋳造砂型用金型、などです。
 これらの金型には次のような要素と現象があります。新作金型、改造、設計変更、成形加工時の打こんやキズの発生、バリとり、ピンホールの修正などの修理、古い金型の改造、輸入金型の改造や修理調整などです。高度経済成長の時は、金型の修理はあまり重要視されませんでした。やれ行けどんどんですから、新作中心の製造思想でした。昔の話としては面白いですが、今日の世界環境はがらりと変っています。韓国、台湾の高度な金型技術の水準、中国の台頭とアジアの技術水準の向上で、日本の金型産業は大変な打撃を受けています。金型技術はかってのように日本のお家芸ではなくなりつつあります。
 たとえば、昔では繊維産業や製鉄、近い昔では半導体です。技術やシェアで世界に君臨した日本の中核産業でした。それが今日では韓国や中国、台湾、アジアにとって替わっています。日本の金型産業もそう遠くない時期に、同じプロセスをたどることは間違いありません。その序曲はすでに数年前から始まっています。日本の産業は私の造語ですが真空化、ザル化現象をおこしています。

日本の金型製造業は4つのカテゴリーというか階層に分類されます。
A.大手メーカーの金型事業部
B.大規模中核金型専業メーカー
C.金型中小メーカー
D.1人〜3人の零細の金型屋さん。
企業数のほとんどを占めるのがC.D.です。

 これからの金型製造業は高度デジタル装置化製造業になっていきます。たとえば、高速回転マシニングセンター、3DCAD/CAM、データ通信システムなどです。これらを導入するには、巨額の設備投資と高度な技術者の人的資源が必要になります。大多数の企業数であるC,Dの金型メーカーが直面する深刻な問題です。企業数で大多数をしめるC,Dの金型メーカーのなかで、この巨額の設備投資と技術者養成を自前で養成することができる企業は限定されてきます。これから倒産、廃業、企業の再編成が急速に進むと思われますが、どちらにしても旧来のやり方と技術の延長上では、ことは解決しないと考えています。
 日本の金型製造業の将来を予測するとき、私は日本に金型会社経営と技術専用の技術者養成機関をつくって、日本の金型産業の再生する必要があると考えます。業界の方たちや先生方も、日本の金型製造企業の環境や将来を悲観的な面から見た論調が多いように感じます。その研究や実態の報告です。どれを読んでもよくまとまったすばらしいレポートや論文ばかりですが何かが不足しています。大胆な提案がないのです。そこで私は次のことを提案します。

仮称:
1.日本金型技術大学
2.日本金型技術高専
3.金型肉盛溶接学校の創設を提案します。

1.技術大学カリキュラム
高度な技術と高度な経営の高等教育をして、世界に通用する日本金型産業の中核的なビジネスマンと経営者を育成する。金型MBAコースを併設する。
最先端の金型基礎技術講座と実習
3DCAD/CAM/CG,インターネット技術,データ通信技術,NC,高速マシニングセンターなどの基礎技術の教育と実習,金属材料,会計,法律
金型経営学,技術英語,上級ビジネス英語,初級中国語韓国語,国際ビジネス論
世界に通用する人物を育成する。 その他多数。

 本目的ははっきりしています。金型エリート技術ビジネスマンを速成で養成することです。これまでの金型業界の習慣では、入社して15年も20年もして課長や部長になり、対外折衝を認められることになっています。これでは遅すぎます。能力のある若手を早くから投入することができる業界の改革が必要です。

2.技術高専カリキュラム
世界最先端金型技術の中核エンジニアを育成する。
3DCAD/CAM/CG,インターネット技術,データ通信技術,NC,高速マシニングセンター
技術英語と日常英会話 ・初級中国語韓国語
会社では即中核技術指導者になる人物を育成する。 その他多数。

3.金型肉盛溶接学校
溶接のイロハから指導して、金型の肉盛溶接技能者を養成する。
座学と実技 他。

 これまでは企業が個別に育成していた人材育成を、教育機関を通して速成するプロジェクトです。金型製造技術は、NC、デジタル技術、インターネット技術と職人の名人芸が同居している極めて特徴のある業界です。これを最強の優位性に変換して表に出し製品メーカーや海外に協力対抗でき、また貢献することが必要です。

 金型技術者の養成専門学校では、日本の金型技術の伝統をふまえた、最先端の金型技術と金型工場の経営理論などを教育する。英語教育を徹底する。これからはますます国際化の現実が当たり前になってきます。金型業界だけでなく、日本の多くの業界で日本鎖国論が噴出しています。残念ながらそれは時代を逆転する考え方で不可能です。これからの地球は経済も社会も小さい1つの宇宙船になっていきます。間仕切りはできません。技術、経済のグローバル化にどのように対応するかを考えるのが先決です。再鎖国論は論外と考えます。

                               インターメロン代表 岡 成生(おかしげお)    2003年7月


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